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column caféの使い方
小さい頃からキャトル・セゾンが大好きだったというcafe文化研究家の飯田美樹さんから届いた本とコラム
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vol.3 風を感じるテラスに行こう

 私がパリに留学していた2001年から2002年は、日本では空前のカフェブームと言われていた年でした。日本語の図書館に届いた雑誌を読んでは、日本のカフェに想いをはせた私は、帰国後にたくさんのカフェを巡っていました。ところがお洒落なカフェは沢山あっても何かがしっくりこないのです。
 
 一体何が違うんだろう?当時のパリのカフェといえば、日本からのイメージとは裏腹に、お洒落なカフェはほんの一握りしか存在していませんでした。机の下には吸い殻やらゴミが落ち、すきま風が入って冬でも寒いパリのカフェ。日本での清潔、迅速なサービスに慣れた私にとって、パリのカフェのサービスは素晴らしいとは言えません。けれどもパリのカフェには人間同士の温かみや、いろんな出会い、そして議論がありました。
 
 カフェは日本ではお茶をしてケーキを食べに行くような場所と思われていますが、フランスでは沢山の文化的運動や社会変革の発端となった場所でもありました。日本のカフェに欠けていたもの、それはきっと「カフェは熱く議論を交わす場でもある」という認識でしょう。

 ところで私がカフェの話をする度に、「日本人は議論にも慣れていないし、お酒がないと話しにくいのでは」と言われます。けれども実は、日本であっても、「ここは誰でも自由に思ったことを発言していい場なのだよ」と保証され、ある程度の方法があれば、意外にも皆が皆口をあけて自分の想いを話し出すことができるのです。
 先日私が「ワールドカフェ」という、ルールのあるカフェイベントを体験した際も、初対面の人同士、計40人が、お酒もないのに非常に盛り上がって話していました。そこで、ある人が「秋葉原はコスプレをしてもいいとみんなが思っている場所なのだ」と話していました。このように、「ここはそういうことをしてもいい場なのだ」と認識してそれを行い、しかもそれが楽しければ意外にも場は変わっていくものなのです。

 何人かで集まってカフェで対話をしていると、話は行ったりきたりしますが、誰かが投げかけた疑問に対して皆で考え、話をしていく中で、ある時ふっと「これかも」という言葉が浮遊します。それを誰かが「それだ!」と思ってパッととらえ、また口に出し、「それはこういうことかもしれない」と皆で考えていくうちに、そのアイデアがよりクリアになって洗練されていくのです。すると、一人では悶々と考えるだけで出てこなかった問いに対する素敵な答えが出てくるのだから不思議です。それをああでもない、こうでもないと言っているうちに、対話の参加者だけでなく、より広い範囲の人にとっても魅力的なアイデアとなってくるのです。
 
 また、カフェでの対話の参加者は、何かを求めている人に対して、自分の持っている沢山の新鮮な情報の中から一番必要そうな情報を教えてくれるため、一人でインターネットを検索するより、効率的かもしれません。モンテスキューは「カフェに入った後は入る前に比べて4倍頭がよくなっている」と述べていました。カフェでは、まだ書き言葉になっていない、活き活きした情報が飛び交う上、自分が求めているものを対話の参加者が様々な角度から検討してくれるので、とても得るものが大きいのです。

 カフェでの対話は決して難しいものではありません。自分の友人や知人たちと、近況を話すだけでなく、気になっているニュースについてや、子育てのこと、何か問題と思っているテーマについて、自分から投げかけてみればいいのです。私がお勧めする人数は3人くらいで、誰か一人、いつもの仲間内とは違う人が入っていると面白いと思います。2人だと、個人的な悩みや私生活の話だけで終わってしまうことがよくありますが、3人いればかなり抽象的な話がしやすくなるのです。

 お気に入りのカフェで知人と会うとき、せっかくの機会だからと、日ごろ自分が抱えている社会に対する想いを伝えてみてください。そうすればいつの間にか話のトーンはいつもと違って、より深く、「もっとこうなったらいいのに!」「そうだよね!」という前向きな話になっていくでしょう。カフェはただのんびりする場なだけでなく、社会を変えうる力を秘めている場なのです。自分たちの住む社会をもっといいものにしていくために、カフェで対話をしてみませんか。カフェがそんな場になったなら、いつの日か、日本もカフェから時代が創られるのかな。そんな予感がしています。



<おわりに>

子供が生まれて3ヶ月の時、前川社長からお話をいただいたこの連載も、
もうすぐ1歳になろうとする今回で、最終回になりました。
その間、ひたすら子育てに追われながらも、
なんとかちょこまか時間を作ってカフェに想いをはせてきました。

「ふらんすに行きたしと思えへども ふらんすはあまりに遠し。」

パリのカフェに行きたくっても、この調子ではなかなか行けそうにない私が、
そんな自分の視点をできる限り活かして、
日本のカフェをフランス風に楽しむ方法を考えてみたつもりです。
日本にいてパリに想いをはせている皆さんと、
現在の私の置かれた状況は実は近いのではないかと思って
書かせていただきましたが、いかがでしたか?
よかったら、ご意見・感想などキャトル・セゾンまで送っていただけると嬉しいです。

長々とお付き合いいただき本当にありがとうございました!

飯田美樹

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