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column caféの使い方
小さい頃からキャトル・セゾンが大好きだったというcafe文化研究家の飯田美樹さんから届いた本とコラム
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vol.1 自分のカフェを見つけよう

 パリのカフェはただゆっくりとお茶をしに行くだけの場ではありません。20世紀前半のパリのカフェにはピカソやアポリネールを始めとして多くの芸術家たちが集っていました。そこで彼らは日常的に出会い、芸術談義を繰り広げ、様々な運動や思想を形作っていったのです。
 このコラムでは、そんな活気ある時代のパリのカフェに想いをはせつつ、日本に住む私たちにとってすでに身近なものとなったカフェという場をもっと上手に使いこなすにはどうしたらいいのか考えてみようと思っています。

 さて、歴史にその名を残したカフェには往々にして共通点があるものです。大切な共通点の第一点目として、アトラクターがカフェを選ぶことが挙げられます。アトラクターというのは人をひきつける力を持った人のことなのですが、その人があるカフェを「ここを自分のカフェにしよう」と決め、まわりの人達をそこに集めはじめるのです。例えばパリのサン=ジェルマン=デ=プレで一番有名なカフェ、フロールを選び、そこに多くの人を集めたアトラクターとして、詩人で芸術批評家のアポリネールが挙げられます。彼は1911年に『ソワレ・ド・パリ』という雑誌を友人たちと創刊することになり、その編集部をカフェ・ド・フロールに決めたのです。当時のフロールはまださびれた感じの残る店でした。だからこそ安心して自分の席を確保し、話し合いもできるだろう、と彼はフロールを選ぶことになったのです。そうして彼はそこを編集部とするだけでなく、食前酒の時間になると友人たちを集めて会話をし、次第にその会合には多くの人達が参加するようになりました。のちにシュールレアリスム運動を始めることになる若き日のアンドレ・ブルトンとフィリップ・スーポーはそこで出会うことになったのです。

 アポリネールの友人で詩人のアンドレ・サルモンは「作家たちがあるカフェで待ち合わせをするようになればそこが文学カフェになっていくのだ」と言っています。このように、大切なことは客たちが自分の視点で「ここを自分のカフェにしよう」と選んで決めてみることです。もちろん選ぶ視点は自分の感覚が一番大切です。禁煙か喫煙か、飲物が安いか高いか、静かなカフェか多少騒々しくても大丈夫そうなカフェなのか、席数がどれくらいあるか、駐車場があるかないか、アクセスがどうかなど、様々な視点を総合した上でやはりここが素晴らしい!という穴場なカフェは意外にもあるものです。私は今までカフェ運は良い方らしく、パリ留学時代にも、京都で本の執筆をする際にも安くて店員さんの感じがよく、長居をさせてもらえるカフェが学校や家のすぐ近くにありました。ではどうしたら自分にとって総合評価の高いカフェを見つけられるかといえば、ガイドを熟読することよりも、街を歩き、自分の嗅覚を信用しながら「もしや?」と思うカフェに自分の足で入ってみることが必要です。外観がよかったり、雑誌で紹介されているからといって、実際の雰囲気が期待はずれなことは多いもので、自分の感覚で「これだ!」というカフェを探すことが何より大切です。
 そして「ここを自分のカフェにしよう」と決めてみたらぜひ足繁く通って様子を探ってみてください。様子がちょっとつかめてきたら、何かにつけて友人や知人と会う時にそこを利用してみると、自分のまわりの多くの人がそのカフェを認知してくれます。そうすればあなたが約束をしてない時にも、もしかしたらそこを気に入った友人がふとカフェに立ち寄っているかもしれません。それこそが自分のカフェの楽しみであり、「誰かに会えるかもしれない」という期待を抱いて扉を開けることが可能になります。まだまだ日本では一つのカフェに通う習慣を持っている人は少ないようですが、まずはあなたが気に入ったカフェに通い始め、そこをホームにすることで何かが変化するかもしれません。まずはカフェを選んで通うこと、ぜひはじめてみてください。

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