vol.9 花市へ行けば心も踊る ―一番ロマンチックなマルシェとは―
texte & photo : アトランさやか
好きな花があるだけで生活が少し楽しくなるのを、パリジェンヌ、パリジャン達はよく知っているよう。街角には「フルリスト」と呼ばれる花屋さんがたくさんあり、花を贈りあう習慣がすっかり根づいています。あるパリジェンヌの誕生日に招かれていくと、部屋がオレンジ系やピンク系など、色とりどりのバラでいっぱいだったことも。旦那さまはもちろん、彼女の昔の恋人達や女友達も皆、彼女がバラ好きだと知っていたのです。    
白いブーケは最近結婚した親友Aに 背景に見えているのはオープンカフェ
私が通うマルシェでは、フルリストが3軒も屋台を出しています。掛け声が元気なアラブ人経営の花屋はマルシェ入り口に、鉢植えが得意なところは本屋の隣に、ゲイのお兄さんが素敵な包装をしてくれるところは魚屋の前に。魚の鮮度に目を走らせながら、ついつい後ろの花にも見とれてしまいます。マルシェ内の花屋さんでは、こういう風に毎日の食卓に必要な野菜や果物、魚、肉などを買うついでに気軽に寄れるのが魅力。その気軽さのためか、特に家族や友人の家に招かれることも多い週末は、新鮮な花が飛ぶように売れていきます。花を買ってからマルシェをうろつくと、「綺麗な花ですね!」と声をかけてくる人もいて、こちらの気分も浮き立ちます。ところで、毎年母の日になると、私が通う野菜・果物の屋台のおじさんは女性客に赤いバラを一輪プレゼントします。「母」ではない女性客にも、「お母さんにあげて」とか「そのうちお母さんになるから」など言って、野菜と一緒にバラを手渡してくれるのです。  
Faites-vous plaisir!(喜びをあなたに!)
    パリ市内には花が専門のマルシェが3つもありますが、特にお勧めはパリの中心にあるシテ島の花市場。セーヌ川が流れる河岸に並んだ小路に並ぶこのマルシェでは、草花の香りと爽やかな風に包まれて、ゆっくり散歩をしながら花を選べます。普段行くマルシェでは料理のことを考えて目を皿のようにして品定めをしたり、大きな声を張り上げて注文をしたりと目も口も忙しくフル回転していますが、花市場ではゆったりとした時間が流れます。
メトロCitéを出るとすぐそこが花市場の入り口 ガーデニングに必要な鉢やじょうろも手に入る
  この地に花市が開かれるようになったのは19世紀初頭。今では観光客で賑わうシテ島ですが、その当時は薄暗い道に人々がひしめきあい、貧民街のような地区だったそうです。その後ナポレオン3世の片腕だったオスマン氏がパリ中をすっかり整備しましたが、この市場にはどこかに混沌とした中世の名残が感じられる気がします。生花を売るお店に混ざって、花とは関係のない内装用のデコレーションなどを並べるお店があるのは何とも不思議。  
毎週日曜日は賑やかな小鳥市になる やっぱり食べられそうなものに目がいってしまう
シテ島に足を伸ばしたら必ず寄りたいのが、セーヌ川の左岸と右岸を結ぶ、パリで最も古く美しいポン・ヌフ橋です。広々とした石畳の舗道を歩きながら、レオス・カラックス監督の映画「ポンヌフの恋人」に出てくる大道芸人の青年と画学生のカップル、そして作品中の花火の名シーンを思い出す人もいるかもしれません。91年にこの映画がつくられてからもう随分時間が経ってしまいましたが、この橋は今でもセーヌの恋人達を見守り続けています。    
橋の上でぐっすり昼寝をするパリの人 ポン・ヌフから臨むノートルダム大聖堂

■花市場(火〜日8:00〜19:30)
住所 Place Louis-Lepine 75004

<次回>vol10. ますます気になるビオマルシェ  ―もしくはサン・ジェルマン散歩―

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