vol.4 ピクニックのすすめ −春になったら−
texte & photo : アトランさやか
フランスは冬が長いため、春になってちょっと天気が良くなると公園は太陽の光を求める人々で賑わいはじめます。私もそれを真似して、少し暖かくなると頻繁にセーヌ川沿いにある芝生に向かいます。ときどき前を流れる船などを眺めながら、のんびりお昼を食べる時間は格別。そんなときのメニューは、チーズにワインに生ハム、デザート用に季節の果物というごくシンプルなもの。
[写真1 赤くて綺麗なジャムもできます]
   
  ところで、フロマージュ売り場はマルシェの中でも一番「神聖」だと思ってしまうのはどうしてでしょう。チーズの色は白がベースだからでしょうか。乳製品は温かくて心地良いイメージを食卓に与えてくれます。それに、気のせいかフロマージュを売る女性には肌が美しくて快活な人が多い気がします。お気に入りのフロマージュ店で綺麗な女性を見るたびに、かの有名な美食家のブリア・サヴァランの名言、「食道楽は、目に輝きを、肌に新鮮さを、筋肉には張りを与える。」を思い出します。ちなみに、彼は「食の楽しみを味わえる人は、そうでない人よりも10歳は若く見える」とも書いていますね。ワインは、チーズが生産されている地域のものを選べば、素敵なマリアージュ(結婚=組み合わせ)のでき上がりです。
[写真2 フランスでは1年365日、毎日違うチーズを楽しめると言われている]
[写真3 日本の漫画が好きだというチーズ屋の娘]
パンは、白カビ系のおとなしい味のものにはバゲット、青かび系やヤギのチーズ(シェーブル)には胡桃やレーズンなどが入ったタイプを選びましょう。バゲットを注文するときは、しっかり焦げ目がついたものが良かったら≪ Une bagette bien cuite, s'il vous plaît.(ユヌ・バゲット・ビアン・キュイット・シルヴプレ)≫、逆の方が良ければ≪ Une bagette pas trop cuite, s'il vous plaît.(ユヌ・バゲット・パ・トロ・キュイット・シルヴプレ)≫と言えばお店の人が好みの焼き加減のものを探してくれます。一本まるごとバゲットが食べきれないときは半分だけ頼むこともできて便利。 ≪ Une demie baguette, s'il vous plaît.(ユヌ・ドゥミ・バゲット・シルヴプレ)≫
[写真4 夕食の時間が近づくとバゲットの山が瞬く間になくなっていく]
[写真5 サラミはまるごと一本買っても、薄くスライスしてもらっても]
[写真6 いつも親切にアドバイスをくれるお姉さんはピンクの可愛いスモックがよく似合う]
 
    サンドイッチの具に、アペリティフにと大活躍の生ハムやサラミは、マルシェに店をかまえるイタリア惣菜店で。フランス人に負けず劣らず食べることに真剣で、しかも底抜けに陽気で親切なイタリア系移民の存在は頼もしい存在です。パルメザン・チーズの塊を荒く砕いて爪楊枝を刺し、バルサミコ酢に軽くつけながらいただく素敵なおつまみを覚えてからは、毎週のように通っています。
  パリを旅行する機会があったら、新鮮なチーズ、焼きたてパンやお菓子、ワインなどをぜひ試してみてください。空輸で日本に運ばれるフランスの食品も美味しいけれど、その土地で、その空気の中で味わうこんな気軽な食事はきっと何よりもいい想い出になるはず。私も初めてパリに来たときにそのお惣菜やお菓子の豊富さに目を見張り、「これを全部食べるにはまた戻ってくるしかない!」と固く心に誓ったものです。若いときにパリで暮らした作家の森茉莉さんは、エッフェル塔近くの菓子店でみつけたお菓子について「薔薇と菫の花びらを砂糖で絡めた、小さな干菓子があったので薔薇と菫が美味しいことを私は知っているのである。」と書いていますが、そんな「私は知っているのである」を少しずつ増やすのがパリ滞在の醍醐味かもしれません。
[写真7 食べるのがもったいないくらい美しいフランス菓子]


<次回>vol5. 『パリの胃袋』 −マルシェの歴史を探して−

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