vol.20 最終章 ―どこでもないマルシェ―
texte & photo : アトランさやか
最終回の今回ご紹介するのは、私がいつも通っている名もないマルシェのお話です。パリに住んでいる人にはそれぞれ「私のパリ」があるように、マルシェに通う人には「私のマルシェ」があるもの。行き慣れた友人の家にふらりと立ち寄るのにも似て、そこでは明るくて自由気ままな気分になれるのは不思議なほど。予約もいらなければ入場料もかからず、偶然友人にも会えたりする社交場にもなっています。私が通うマルシェは家から歩いて10分ほど。入り口にある野菜と果物のスタンドでは、いつ行っても無邪気な冗談が飛び交っています。「イチゴ2パックで5ユーロ! 多すぎるって言うなら、僕が一緒に食べてあげる!」という売り手の声に思わず笑い出してしまう女の子がいるかと思えば、「お昼の…そうだな、12時45分に食べるための、アボカドをひとつ!」と頼んでニヤリと笑う常連客のムッシューがいたりして、列に並んで待っている間も飽きることがありません。  
朝一で来たら、陳列台がすごく綺麗だよ!
    続いて寄るのがじゃがいものスタンド。いつもお洒落なシャツを着て、にこにこ迎えてくれるお兄さんは、今日も満面の笑み。「グラタン用に」「フライドポテト用に」と伝えると、それに合ったものを選んで計ってくれます。その隣、夫婦できのこ類やサラダを売るスタンドで私が毎週買うのは、「ロゼ」のマッシュルーム。薄い茶色といわずにロゼ(淡いバラ色)というのは、ここで教わった呼び方でした。
私のことは、どうやら中国人と思っている 右下はソースにも大活躍のジロール茸
いつも列が絶えないイタリア系スタンドの人気商品は、バジリコやほうれん草、チーズ、ひき肉など各種手作りラビオリ、ラザニア、パルマやサン・ダニエル産の生ハム。近くにもイタリア系の惣菜店はありますが、浮気が出来ない美味しさです。いつ行っても太陽を思わせる笑顔で話しかけてくれるここのご主人は、毎年夏になると故郷の南イタリアに車で帰郷して、ゆっくり夏のバカンスを過ごすとか。    
この人の顔を見るとつられて上機嫌に 食前のおつまみにはここのサラミが定番
  そんなイタリア惣菜店の正面に最近現れたのが、素朴な風貌のチーズ屋さん。といっても、置いてあるのはヤギのチーズと、そのチーズを使ったパイのみ。お店の主人に声をかけて話をしてみると、ご本人がノルマンディー地方でチーズをつくっているとのこと。商人というよりは職人と呼びたくなるようなその雰囲気にも納得です。ここのフレッシュチーズは、人の家にお土産に持っていきたくなるほど絶品。  
恥ずかしがり屋のチーズ屋さん ある日のランチはここのパイを温めて
    魚屋に寄って、家に帰る前にはマルシェ近くにあるカーブへ。お酒に詳しいわけでもないのに、マルシェの余韻から抜けきらないまま、お店の人と相談しながらワインを選びます。そんなワイン屋も8月はバカンスで閉店なので、「Bonnes Vacances!(いいバカンスを!)」と言い合い別れます。私も今月のマルシェが終わったら、しばらく旅に出ることに…。そう、また次にお目にかかれるのを楽しみに!
器用にはさみを使い、ちょきちょき下ごしらえ どんな料理にも合うワインを見つけてくれます

最後までご愛読くださり、どうも有難うございました。 アトランさやか

*キャトル・セゾンからのお知らせ
2008年1月から掲載してまいりました「パリのマルシェから」は、
今回のvol.20をもって終了いたしました。
今後のアトランさやかさんのご活躍は、パリの新聞 OVNIにて9月から始まる
プルーストに関する連載でお楽しみいただけます。


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