vol.12 切手市へ行こう ―ヘップバーンに憧れて―
texte & photo : アトランさやか
  オードリー・ヘップバーンが主演の映画『シャレード』を観たことがある読者の方もいると思います。この作品はパリが舞台のサスペンス・ムービーなのですが、何よりも気になるのはヘップバーンが華麗に着こなすジバンシーの衣装かも。ストーリーの鍵となる切手市でのからし色のコート姿や、ベージュの帽子や黒の小さなハンドバックなどの小物使い、紺色のシルクのパジャマ姿まで、どのシーンも目が離せません。  
映画にも登場する隣の公園では今も人形劇が 19世紀の切手は消印の美しさが価値を左右
映画が撮影された60年代と比べると規模は小さくなってしまったけれど、今でもシャンゼリゼ近くでは切手市が開かれています。ちょうど市場の中ほどにスタンドを出しているパスカルさんは、以前は某タイヤメーカーで働いていたそう。子供の頃からの切手好きが高じて7年前にここにお店を開いてからというもの、木・土・日と休まず出店を続けています。冬はさすがに寒さがこたえるそうですが、パスカルさんは、この切手市での素朴な人間関係にすっかり夢中になってしまったとのこと。同業者の方たちは辛苦をともに分かち合う同志。それに、決しておしゃべりというわけではないけれど、顔見知りになった顧客とのやり取りも楽しんでいるといいます。「新しいギリシャのものは入荷しましたか?」「パリの9区はある?」なんていうお客さんのリクエストに喜々として答えていました。そして、何よりもご自身が切手コレクターというだけあって、好きな切手の話を始めると目がきらきら輝くのを隠せないよう。  
リクエストに答えようと、一生懸命ストックをチェック
    切手は、大体どこのスタンドでも大きな切手帖に年代毎に整理されています。気に入ったものがあったらお店の人に伝えると、ピンセットで一枚一枚丁寧にとってくれます。運が良ければ半透明の可愛い封筒に入れてくれることも。ちなみに、切手にはそれぞれナンバーがあって、スタンドに備えてある切手図鑑で探せば値段がちゃんと書いてあるので安心。でも、蚤の市に来たノリで値切れば、端数は切り下げてくれたりもします。
綺麗に並んだ切手には、一枚一枚歴史がある 微妙な色合いが楽しくて、全色欲しくなってしまう
  ポストカードは、世界各地からフランス全土の県、パリの各地区など地理を軸にしたスタンダードな分け方もあれば、植物や動物コーナー、その他色々入った「ファンタジー」などに分類されています。やってくるお客さんの層は男性ひとり客が多し。小さな切手を丹念に見る姿からは、コレクター達の静かながらも熱い情熱がふつふつと湧いているよう……。すぐ隣に劇場があるので、俳優達がひやかしにやってくることもあるそう。  
スタンドの後ろに見えているのがMarigny劇場 実際に使用された葉書も多く、裏にはメッセージが
今回新しく発見したのは封筒と便箋が一体化した手紙。昔は羽ペンをインクに浸して手紙をしたためた後、便箋を折って裏側に住所を書き、端をロウで閉じていたというからなんとも優雅。文字が一部透けて見えているところがまたミステリアスで想像力をかき立ててくれます。この切手市、地味と言えば地味ですが、猥雑なショッピング街の向きが濃くなってきたシャンゼリゼ界隈において、独特の小宇宙を味わえる貴重な場所なのです。    
限りなく上品な薄いブルーの便箋は19世紀のもの 美しい筆跡には、書いた人のお人柄が表れる?

■切手市
木・土・日曜日 9時〜19時まで(冬期は17時頃まで)
場所: Avenue de MarignyとAvenue Gabrielの間
メトロ:1・13番線 Champs Elysees Clemenceau駅

切手にはまってしまったあなたへ……
■切手博物館(月〜土10時〜18時)
34, boulevard de Vaugirard 75015
メトロ4,6,12,13番線Montparnasse駅


<次回>vol.13 パリの空の下、和のにおいは流れる ―多恵子さんのマルシェ―

バックナンバー