パリのエスプリに触れるなら  1/3 2012.12.21
交差点ごとにカフェがあり、メトロの出口付近には3−4軒のカフェが隣り合わせになっているパリの街。そんなにも選択肢がある中で、このカフェにする。その決め手は一体どこにあるんでしょう?料理が美味しい、店員さんの感じがいい、リーズナブル、様々な理由はあれど、決め手はやっぱり「あっちよりこっち!」という自分の感覚ではないでしょうか。店全体の雰囲気は、主人のこだわりや心意気、ギャルソンの人との接し方や、何に価値を置いているかで大いに変化するものです。エスプリを感じるお店には、隣にどんなにお店が並んでいても、つい足を運んでしまうもの。最終回では、パリらしい心意気に今でも触れられる、お手頃価格なカフェやビストロをご紹介します。
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●Le Procope(プロコープ)
 パリのカフェの歴史はこの店から始まりました。1686年に創業されて以来、役者に始まり、哲学者や政治家など数々の歴史的人物が集い、コーヒー片手に議論を交わしていったカフェ、プロコープ。それ以降数々の変遷を重ねたものの、現存してくれている貴重なお店。

 開店当初は大きな鏡やシャンデリア、ろうそくの光や大理石のテーブルなど、宮廷風のインテリアで多くの人を惹き付け、それが後にパリのカフェのモデルとなりました。数々の偉人の写真、絵画、サイン、それにシャンデリア、優雅さを感じていられる店内。フランス革命時を再現したという歴史を感じる空間には圧倒されてしまいます。現在はカフェというよりフランス料理店ではあるけれど、意外と値段はリーズナブル。パリカフェツアーの時には、お昼に一人25ユーロ程度でメインと前菜又はデザートを注文できました。世界中から観光客が訪れる店とはいっても、きちんとした料理が味わえます。

 ツアーの時に沢山の料理を味見させてもらった中で、何よりも驚いたのは名物イチゴのアイスクリーム。まるで甘くて美味しい部分だけをギュギュッと濃縮したイチゴを丸ごと舌の上で転がすような…世の中に山ほどアイスクリームはあれど、私の知っていたアイスクリームと同名で呼んではいけないような代物でした。

 それもそのはず、プロコープはパリで初めてカフェとして成功しただけでなく、まだ珍しかったアイスクリームにもとても力を入れていたのです。創業者のフランスシスコ・プロコピオは、故郷シシリアから沢山の魅惑的な香りを持ち帰り、まさにうっとりという言葉がぴったりくるアイスクリームの味をパリに広めていたのです。一口味わっただけで身震いしてしまう程美味しいものは、自分の中に予期せぬ力も与えます。衝撃的な味わいに感動した時、思わず音楽や言葉が頭の中に流れ出したことだってあったでしょう。文士達がこの店に集ったのは、優雅な装飾品や議論が目当てだっただけではなく、もしかすると、作品のために本当に美味しいものの力を借りていたのかもしれません。そんな時代に想いをはせて、彼らが座ったかもしれない場所で、自分も同じものを味わってみる。それこそ、この場でしか味わえない楽しみです。

 
 
 
 
● La Palette(ラ・パレット)
 セーヌ川とサン=ジェルマン・デ・プレを結ぶセーヌ通りには、数々の画廊が連なっています。カフェ、ラ・パレットは静かで落ち着いた雰囲気の画廊街と、いつも人で賑わうヴィシィ通りのちょうど中間にあります。

 パレット、という名前の通り、ここはアーティストに関連深い店。国立美術学校、ボザールのすぐ近くのこの店には百年前からアーティストが通っていたらしく、至るところに絵やパレットが飾られています。店内はどこも時代を感じさせる、年代物のクリーム色や黒光りする濃茶色。このカフェには今でも常連さんが立ち寄ります。通りからカウンターにやって来て、エスプレッソ片手に新聞を読む紳士。この店に射し込む光はキラキラとして美しく、光に照らされたカウンター周辺はまるでフランス映画を観ているよう。ギャルソンが忙しそうに働き、会話の弾むカウンターの裏手には、19世紀にタイムスリップしたかのような世界が待っています。

 かつてカフェにあったといわれる常連用の奥の部屋とはきっとこのことなのでしょう。通りに面してはいるものの、可動性らしきガラス戸はしっかりと閉ざされています。この空間に入るには、カウンターまわりの入りやすい席を越え、一見何もなさそうな店内奥まで足を伸ばし、左手にひっそりと現れる扉の向こうにまで行く必要があるのです。カウンターまわりとはうって変わって広い奥の部屋には、古びた木の机が雑然と並び、天井付近には年代物の絵画が所狭しと掛けられています。壁沿いの革張りの長椅子の上には大きな鏡がいくつも並び、空間を広々と演出しています。なんとも薄暗いこの空間は、夕方以降に訪れると色彩がわからなくなってしまうほど。パリにカフェは数あれど、こんなにも時が止まったかのような空間にはなかなか出会えません。それもそのはず、店の正面と奥の部屋はなんと歴史的建造物に指定されているそうなのです。19世紀の芸術家たちが集まっていそうな空間に身を置いてると、マネやモネも実はここに居るのでは?と思ってしまいます。

 カウンターまわりでも、奥の部屋でも、自分の属している時代を一瞬疑ってしまうカフェ、ラ・パレット。こんな素敵な空間が当たり前の日常の一コマにある。それが外国人が憧れてしまう、パリの豊かさなのかもしれません。
 
 
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