パリの素顔に触れるなら 2012.09.14
せっかくパリに行くんだったら、街を眺めるだけじゃなく、フランス人の素顔に触れていたい。そんな方にオススメなのが、現代のパリジャンたちに愛されていて、心地よい活気を感じられるカフェ。どこも自然体で気取らないのにセンスが良く、その店らしい個性があります。パリの今を感じていられる活き活きした雰囲気に身を置いていると、自分では思いもよらなかった何かがひょっこり生まれてくるかもしれません。
 
 

● Chez Prune (シェ・プリュンヌ)
映画『アメリ』の中に、主人公のアメリがエメラルドグリーンの橋の上から運河に向かって石きりをする美しいシーンがあります。その舞台となったのが、パリのサンマルタン運河。現在流行しているこの運河付近は、これといって特別な何かがあるわけでもありません。けれども木々の間を通り抜けていく風の、さわさわと心地よい音を聞きながら運河沿いでのんびりするのはなんとも心地良いものです。

シェ・プリュンヌはまさに風を感じるサンマルタンに面したカフェ。そんな所に惹かれる気持ちは誰もが同じというわけで、テラスはほとんどいつも満席。仕方ない、と店内に入ってみると、こちらにも素敵な世界が待っています。レピュブリック広場界隈の雑然とした雰囲気が、運河からの穏やかな風で中和されるのか、この店には独特の居心地の良さがあるのです。入って左には個性的なセンスが光る、銅を用いた細長いカウンター。その奥には私服で楽しそうに働く店員さん。オレンジや緑、黄色などの混じり合いや店内に飾られたオブジェたちは不思議と仲良く調和し合って、少し異国感のある雰囲気を形成しています。このカフェにはゆるい空気が流れていて、つい長居したくなってしまうのです。

この店は現代のパリを象徴するようなカフェ。気楽さ、気取らなさ、移民や2世、3世たちの創り出す異文化の混じり合い、それをパリジャン風のセンスのよさでクラシックなものとミックスさせて、心地良いものを生み出していく…ちょっとコロニアルな雰囲気も感じられるこの店では、最近流行しているモロッコ風ミントティーも味わえます。小さなグラスになみなみと注がれたあたたかいミントティーは、砂糖の甘さとミントのほろ苦さ、後味のさわやかさが特徴的。2ユーロ程度ととてもお得で、飲んだ後にはスッキリとして元気になれます。

シェ・プリュンヌは食事にも力を入れているらしく、ランチ時には混み合うそう。私がいただいたカラフルなサラダとお肉料理はレバノン風なのか、見たこともない野菜や調味料が使われていましたがどれもとても絶妙で舌が喜ぶ味わいでした。

気楽な雰囲気がただようシェ・プリュンヌは、店員さんもお客さんもいつも力を抜いて楽しそうにしています。ここではパリに居ながらバカンスのような気分になれるかもしれません。気のおけない友人と、心おきなく会話を楽しみたいときにぜひ足を運んでみてください。

 
 
 
 
● café de l'Industrie (カフェ・ドゥ・ランドゥストリー)
パリのカフェの魅力って一体どんなところにあるのでしょう?その1つに、低価格で素晴らしい空間を味わえる、という点もあるでしょう。バスチーユのカフェ・ドゥ・ランドゥストリーはまさにそんな店。毎週日曜朝に開催される、バスチーユの活気溢れるマルシェの雰囲気を堪能したら、市場の終点近くにあるこのカフェにぜひ足を運んでみてください。

ワインのセレクトショップや洗練されたイタリア惣菜店の並ぶ小道を少し上がると、交差点の角にカフェ・ドゥ・ランドゥストリーの茶色い外観が現れます。向かい合わせに2店舗あるこの店は、迷路のように連なる幾つもの空間が特徴的。沢山のソファー席があり、せっかく来たけど満席で入れないなんてことはまずありません。時の流れを感じさせるクリーム色の壁には、額に入った年代物の絵が随所に散りばめられています。ちょっとしたポイントごとに置かれた間接照明や、ボリュームのある観葉植物は、室内の光をふんわりと柔らかく、居心地良いものにしてくれています。テーブルや椅子、オブジェなどは蚤の市で探してきたようなアンティークが多く、形はふぞろい。様々なものが置かれているのに不思議な統一感が感じられる、この店のセンスの良さには感心してしまいます。

このお店、自然体でリラックスできる雰囲気な上、値段もとってもリーズナブル。鴨のコンフィは確か13ユーロ台でした。パリでこんな値段にはなかなかお目にかかることができません。その鴨の皮のパリパリだったこと!ナイフを通すとジューシーで柔らかいお肉が姿を現します。口に含むと顔がほころぶ、まさに幸せを感じていられる味。パリのカフェツアーでこの店に来た時には皆で少しずつ味見し合ったのですが、クラシックなメニューもデザートも、どれも目を丸くする美味しさでした。思わずもう一口…!と言いたくなってしまいます。この雰囲気とこの味を低価格で味わえるなんて、パリでは重宝する店です。

たとえお財布にお金がなくても、1ユーロ硬貨1つさえあればカウンターでエスプレッソを楽しめます。小道を行く人、美しい装飾のパン屋さんに出入りする人、お洒落なカウンターから店内を眺め、楽しそうにデザートをつつくパリジェンヌたちを横目にエスプレッソを飲んでいられる・・・パリのカフェってそういうところがいいんだよなあと実感させてくれたのはこの店です。
 
 
 
● café zoïde (カフェゾイド)
パリに子供専用のカフェがあるらしい。子供?カフェ?パリ?カフェ・ゾイドのことを本で読んで以来、それはぜひとも行かないと!と思っていました。ある日ウルク運河沿いを歩いていると、アーティスティックで面白そうな場所を発見。よく見るとカフェ・ゾイドではないですか。カフェというより公共施設のような外観と、子連れでないとだめだろうと思い、何度かためらいましたが、後日意を決してと扉を押してみることに。

扉を開けると目の前にはズラリと並んだベビーカー。その上には天井からロープで吊るされた色とりどりのハンガーにコートがゆらゆら。見たこともない様子に目を丸くした後、人の居る方に視線を向けると、本で目にしたモザイクタイルのカウンターがありました。そして、そこに立っていたのは子供ではなく、あれ?大人たち。なんだ、子供しか行けないカフェじゃなかったんだ…勇気を出して頼んだカウンターでのエスプレッソの美味しかったことといったら!隣に居た人たちに尋ねてみると、2階では音楽やアート、ヨガなど、子供のための様々なアトリエが開催されているそう。

さて、時が経ち、今度は我が子と念願のカフェゾイドに通う日がやってきました。子供の入場料2ユーロを支払うと、2階のアトリエや子供用のご飯、おやつなどを楽しめます。2階にはおもちゃや絵本、筆を使ったお絵描きスペース、すべり台やサッカーゲーム台などがあります。ここでは水曜から日曜までの朝11時から音楽のアトリエが開催され、お兄さんやお姉さんがピアノやギターを弾きながら、沢山の童謡を歌ってくれるのです。その間子供は歌ってもよし、楽器をたたいてもよし、オモチャで遊んでもよし、大人は子供と一緒に歌ってもよし、友達と話しても、一人でコーヒー片手に新聞を読んでもよし…!なんて自由なんだろうと驚きました。

おもちゃがあって遊べるという環境は日本の児童館に似ているものの、大きな違いもありました。それは大人が子供の傍らでほっとお茶が飲めるということ。また、何より驚きだったのは老若男女と国籍の雑多な混じり合い。ママだけでなく、アフリカ人の乳母グループ、パパ、おばあちゃんらしき人、見学に来た学生や市民のグループ、ここで企画をしようとしている若い音大生らしき人たちもいます。年齢は0歳から70代くらいまで、国籍はフランス人、ハーフ、アフリカ系にアジア系まで本当に多種多様。

お昼になると下からぷうんといい香りが漂います。移民系のスタッフが作る多国籍料理はクスクスやパスタだけでなく、今まで目にしたこともないような煮込み料理まであります。さすが子供向けのカフェだけあって、口に含むとどれも野菜たっぷりでやさしい味わい。ご飯は大人1人分だと4、5ユーロで、メニューは1種類のみです。焼きたてのケーキや有機栽培のジュース、それにエスプレッソ、ミントティーもおすすめです。

いつ来てもいつ帰ってもいい、好きだったら毎日生演奏の音に触れていられる。カフェ・ゾイドのお陰で私たち親子はフランスの童謡が大好きになり、気付けば道端で口ずさむようになっていました。お店の前のウルク運河には船が何台も停泊し、とてものんびりした雰囲気です。一度、子連れのカップルが運河沿いでお昼ご飯を食べた後、白いカップに入ったエスプレッソを楽しんでいるのを見かけたことがありました。なんて素敵なんだろう!でもあのエスプレッソは一体どこから?と眺めていたら、カフェ・ゾイドから自分たちで出前をしてきたようでした。

パリジャンたちの素顔にダイレクトに触れられて、あたたかい出会いを今でも楽しめるカフェ・ゾイド。子連れであってもなくても、現代のパリを肌で感じに、ぜひ足を伸ばしてみて下さい。
   

 
 
 
● café charbon(カフェ シャルボン)
21世紀が始まる少し前から、パリの東、オベルカンフという地区を徐々に流行の地にしていったのがこのお店。かつてカフェ・ド・フロールという店がサン=ジェルマン・デ・プレに人々を移動させていったように、現在のパリのカフェにも、界隈を形作る力があるのです。

店内に足を踏み入れると、天井が高く、時代を感じさせる空間が広がります。右手にはパリでは珍しい、まっすぐで大きなカウンター。たいてい何人かがビールやワイン片手に腰掛けています。カウンター奥の看板に、注がれるのを待ちながらうっすらと埃をかぶった酒瓶たちは、何年も前からほとんど変わらない光景。薄明かりに包まれたカウンターをぼんやりと眺めていると、西部劇の酒場にタイムスリップしたような気になります。

ところがここは夜になると20〜30代の人たちがやって来ては熱を込めて語り合う、現代の熱気を感じられる場所なのです。シャルボンの2階にはクラブ風のライブ空間があり、店の外には開店を待つ若者たちがよく列をなしています。そのためか、夜のシャルボンはBGMの音が大きい、騒々しいカフェに変身します。シャルボンはうるさいし、他のカフェにしとこうか、と何度も思いながらも結局ここを選んでしまうのは、やっぱりここにしかない「何か」があると思ってしまうから。不思議なことに、ここでは他のカフェよりもっと深く、人生に刻印を残すような会話が生まれやすいのです。

それは熱を込めて話さないと相手に声が届かないから?それとも年代を感じさせるインテリアとうっすらとした間接照明に囲まれていると、自分の中に眠っていた何かがゆっくりと目を覚ましてくるのでしょうか?

カフェ・シャルボンの空間は、まるで雨上がりに虹が出現する時のように、ここにある粒子がきらきらと輝いているような感じがします。このカフェには人々を夢見心地にさせてくれる何かがきっとあるのでしょう。もしかしたら、自分にはもっと力があるかもしれない。こんなことをしたらもっと面白いんじゃない?どれほどのアイデアがこの店から生まれていったことでしょう。

一見静けさを感じさせるこの店には、現代の不思議なダイナミズムが存在しています。ここは一人で来るよりもぜひ誰かと会話をしに来てみて下さい。店を出る頃には思いもかけなかった何かが生まれているかもしれません。
 
 
 
 

■Chez Prune(シェ・プリュンヌ)
36 Rue Beaurepaire -Quai Valmy- 75010
メトロ5番線 Jaques Bonsergent, メトロ3、9、5、8、11番線 République

■café de l'Industrie (カフェ・ドゥ・ランドゥストリー)
17 Rue St Sabin, 75011 Paris
メトロ5番線Bréguet-Sabin 又は1、5、8番線 Bastillen

■café zoïde (カフェゾイド)
92 bis Quai de la Loire, 75019 PARIS
メトロ5番線 Laumiére 、メトロ7番線 Crimée ou 2、5番線のJaurés からウルク運河沿いに歩いて行くことも可能

■café charbon(カフェ シャルボン)
109 Rue Oberkampf, 75011 Paris
メトロ3番線Rue Saint Maur 又は3番線Parmentier

   

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飯田美樹
カフェ文化研究家。留学時代にパリのカフェ文化に魅力を感じて以来、社会の中でカフェという場が果たす役割について研究、発信している。著書に『cafeから時代は創られる』。2011年には西国分寺のカフェ、クルミドコーヒーの社員さんたちとパリのカフェを巡るツアーを企画、実行。パリのカフェやビストロの情報発信をするフランスのサイト、Paris-Bistro.comの日本版代表。
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