フランスで最もシンプルで幸せな食卓といえば「美味しいパンとヴァン(ワイン)とフロマージュ(チーズ)」。そんな、飾らない豊かさをお伝えしたくて、日本における農家製フロマージュ普及の第一人者、本間るみ子さんにフランスのフロマージュをご紹介いただきます。
5.モン・ドール  Mont d'Or   2013.11.14
   
 晩秋の頃に旬を迎える「モン・ドール」。ビロードのような表皮を薄く切り取ると、中身はまるでカスタードクリームのようにトロトロ。仲間が集まるパーティでは話もさらに弾みそうです。
   
モン・ドールの旬
 食べ物の旬がなくなりつつある傾向はチーズの世界も例外ではありません。ほとんどのチーズは通年で生産されていますが、「モン・ドール」は製造期間が法律(AOP)で8月15日から翌年3月15日までと、きっちりと規定されています。それだけに解禁を待ち望む人たちが多いのも当然といえるでしょう。製造した日から最低でも3週間の熟成を経ての出荷になりますから、旬の走りが店頭に並ぶのは早く見積もっても9月。でも、ゆっくりと熟成させたトロトロの状態を楽しんでこその「モン・ドール」です。至上の美味しさを求めるなら、冷え込みが厳しくなる11月頃から翌年2月頃でしょうか?
   
モン・ドールのふるさと
モン・ドールとはMont(モン)が山、Or(オール)が黄金を意味し、フランスとスイスの国境に位置するジュラ山脈にある1463メートルの山の名前がつけられています。山の麓は、12世紀、サン・クロードとモンブノワの修道士たちによって開墾された美しい高原になっています。夏の間は牛たちの楽園となりますが、冬は極めて寒く、六甲おろしならぬ「モン・ドールの吹きおろし」という言葉さえあるほど、冷えこみはフランス随一です。
   
 モン・ドールの産地はコンテの産地と重なります。ひとびとは農家で搾った乳を集めて大型のコンテを製造していましたが、秋になり牛たちが高原から麓の牛舎に戻る頃には乳量も減り、大型チーズをつくるにはとても足りなくなってしまいます。また、雪が深くなるとフルティエールと呼ばれるチーズ製造所に運ぶことも難しくなります。そこから生まれたのが小さいサイズのチーズだったのです。型くずれ防止にジュラ山地ではどこにでもある樅の木に似た「エピセア」の樹皮で巻いて固定します。さらにエピセアの棚の上で熟成させるのですが、その間に塩水で何度も洗われるうちに、徐々にオレンジ色の表皮が出来上がっていくのです。
   
■おいしい食べ方
 木箱よりも一回り大きいモン・ドールを箱から取り出すのは至難の業です。波を打ったような表皮をつくり出すために、両側を押して箱に無理矢理詰めて出荷される「モン・ドール」に関しては、箱ごと楽しんで下さい、というサインなのです。エピセアの樹皮で巻き、エピセアの棚で熟成させ、エピセアの箱に入れられて出荷されるのには、香りごと楽しんで下さい、という意味が込められています。皮の部分を薄く削り取り、スプーンでトロトロの部分をすくってパンにのせて召し上がってください。エピセアの香りが広がってくるはずです。もうすぐ解禁になるボージョレとの相性も抜群。話題性があり、人が集まるときに活躍すること請け合いです。
   
さて、最後まで食べきらないところで、もうひとつのおいしい食べ方があります。最初に薄く削り取った皮の部分も中に入れ、辛口の白ワインを注ぎます。お好みでニンニクを一片、そこにパン粉を振り、木箱をアルミ箔に包んでオーヴンへ。20分ほどでトロトロのフォンドールの完成です。フォンドールは、モン・ドールとフォンデュを合わせた造語ですが、フランスではすっかり定着しています。  フランスでは700gサイズが一般的ですが、日本では450g〜500gが一般的。箱込みの重量ですのでフランス人なら一人前ですが、私たちは2〜3人でちょうどのサイズかもしれません。この冬はモン・ドールで楽しくおいしい食卓を囲んではいかがですか?
■このコラムでご紹介したチーズはフェルミエのオンラインショップでお買い求めいただけます。
ナチュラルチーズ専門店 フェルミエ

モン・ドール アルノー
   
本間るみ子
新潟県佐渡生まれ。
アメリカに1年遊学した時にナチュラルチーズと出会う。
帰国後、入社したチーズ専門輸入商社「チェスコ株式会社」で、チェスコ創業者・故松平博雄氏に出会い、チーズの生まれた背景とロマンに魅了される。退社後、ヨーロッパ一人旅を決行。西欧の歴史と文化の洗礼を受ける。
1984年にレストラン評価本「グルマン」に出会い、レストラン向けのチーズ卸のアイディアが生まれる。
1986年3月、フェルミエを設立。
チーズの情報を仕入れるために生産者を訪ね歩くことで世界中のチーズ関係者との交流が広がる。
フランスのニームやカオールで開催された農家製シェーヴルチーズのコンクール審査員を経て、1997年パリで行われた国際農業見本市のフランス農水省主催コンクールで、日本人初のチーズ部門の審査員を務める。
チーズのおいしさ、楽しさを伝えたいと、講演活動や執筆活動にも情熱を注ぐ。
 
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